「境界知能」という言葉を知り、仕事がうまくいかない理由はこれかもしれない、と感じた方もいるのではないでしょうか。インターネットで「境界知能 仕事」と調べると、向いている職種の一覧がたくさん見つかります。けれども、境界知能の方がどのような仕事に就いているかを示す国の統計は、当サイトが確認した範囲では見当たりませんでした。

本記事では、職種を並べる代わりに、3つのことを法令や厚生労働省の資料に沿って分かりやすくご説明したいと思います。境界知能という言葉の位置づけ、仕事で困ったときの見直し方、そして障害者手帳がなくても使える相談先と制度です。

なお、当サイトは行政書士が運営する非営利の情報サイトです。知能検査の受け方や結果の読み方など、医療上の判断は扱いません。その点は医療機関などの専門家にご確認ください。

境界知能とは?仕事の話の前に知っておきたい3つのこと

境界知能とは、知能検査の結果(IQ)が平均より低めの、おおむね70〜84の範囲にある状態を指して使われる言葉です。仕事の相談先を考える前に、この言葉が医学や法律の中でどう位置づけられているかを押さえておくと、使える制度の見え方が変わります。ここでは3つのポイントをご説明します。

境界知能は、独立した精神疾患ではなく、知的機能の状態を表す言葉です

まず、範囲の書き方は資料によって少しずつ異なります。「IQ70〜84」「71〜84」「70以上85未満」などと書かれることがあり、全国共通の定義が法令で定められているわけではありません。

医学の分野では、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM)で、かつて知的障がいの下位分類として扱われていた時期がありました。しかし1980年のDSM-Ⅲ以降は、知的障がいのカテゴリーから外れました。DSM-5(2013年)では、独立した精神疾患ではなく、「臨床的関与の対象となることのある他の状態」の一つとして記載されています。その人の知的機能が臨床的な関与の対象となっている場合や、治療・予後に影響している場合に用いることができる、とされています(平田正吾・奥住秀之「知的障害概念についてのノート(2)~境界知能の現在~」東京学芸大学教育実践研究紀要 第19集、2023年)。

つまり境界知能は、医療機関などで評価や説明に用いられることはありますが、知的障がいのような独立した疾患の名前ではありません。また、この言葉だけで、障害者手帳や支援制度の対象になるかどうかが決まるわけではありません。

「7人に1人」は、調査で数えた人数ではありません

境界知能について調べると、「7人に1人」「約14%」「約1,700万人」といった数字を目にすることがあります。いずれも、国が実際に人数を数えた結果ではありません。

知能検査の得点は、平均が100になるように作られています。得点が正規分布(平均を中心に左右対称に広がる分布)に従うと仮定すると、境界知能とされる範囲に入る人は全体の約14%になる、という理論上の割合です(前掲 平田・奥住 2023)。

数字の大きさは、境界知能が決して珍しい話ではないことを示しています。ただし、この割合に当てはまる方がみな仕事で困っている、という意味ではありません。

法律に「境界知能」という区分はありません。ただし、支援の対象外と決まっているわけでもありません

障がいのある方の雇用について定めた障害者雇用促進法は、第2条第1号で「障害者」を次のように定めています。

身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者

この定義に「境界知能」という言葉はありません。一方で、障害者手帳を持っていることも条件にはなっていません。そのため、「境界知能だから必ず支援の対象になる」とも、「手帳がないから対象外」とも言い切れないのが実際のところです。対象かどうかを確かめる方法は、制度ごとに異なります。

境界知能に向いている仕事は、その言葉だけでは決まりません

「境界知能に向いている仕事は?」は、境界知能と仕事について調べられている質問の一つです。けれども当サイトでは、境界知能という言葉だけで向いている職種を決めることはできないと考えています。ここでは、その理由と、職種の代わりに確かめたい条件をご説明します。

職種の一覧を載せない理由

理由の一つめは、同じ「境界知能」でも、得意なことと苦手なことの組み合わせが人によって異なるためです。例えば、成人向けの知能検査であるWAIS-IV日本版では、全検査IQのほかに、言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の4つの指標得点が算出されます(日本文化科学社:WAIS-IV知能検査)。全体の数値が近くても、内訳は人によってさまざまです。

二つめは、根拠となる統計がないためです。厚生労働省「令和7年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況等」は、障がいの種類を身体・知的・精神・その他の4つに分けて集計しています。「その他の障害者」は「障害者手帳を所持しない発達障害者、難病疾患、高次脳機能障害者など」とされ、境界知能という区分はありません。境界知能の方が実際にどの職種で働いているかを示す国の統計は、確認した範囲では見当たりませんでした。

三つめは、同じ職種でも、職場によって仕事の進め方が大きく違うためです。例えば同じ「清掃」でも、手順書があり担当範囲が決まっている職場もあれば、その日の状況に応じて自分で判断することが求められる職場もあります。

なお、境界知能の方の統計ではありませんが、知的障がいのある方が実際にどのような職種に就職しているかは、ハローワークの統計から読み取ることができます。その読み方は知的障がいのある方の仕事|データで見る就職先と3つの働き方でご紹介しています。

職種の代わりに確かめたい5つの条件

「境界知能」という言葉だけで、向いている職種を決めることはできません。ご本人の得意・不得意や希望に加えて、仕事内容、勤務時間、指示の伝え方、職場で受けられる配慮などを具体的に確かめることが大切です。確かめたい条件を5つに整理すると、次のようになります。

条件確かめたいこと
仕事内容手順が決まっているか。一度にいくつの作業を並行して進めるか
勤務時間・ペース1日の勤務時間や休憩の取り方。作業の速さやノルマを求められるか
指示の伝え方口頭だけか。手順書や見本、図などで示してもらえるか
相談できる相手分からないときに質問する相手が決まっているか
職場で受けられる配慮指示の出し方や仕事の量を調整してもらえるか

これらの中には、求人票だけでは分からない項目もあります。職場見学や実習の機会を利用したり、後でご紹介する地域障害者職業センターの職業評価を受けたりして、実際の働き方に近い場面で確かめる方法があります。

境界知能で「仕事ができない」「覚えられない」と感じたとき

「仕事ができない」「何度教わっても覚えられない」と感じると、自分の努力が足りないのではないかと考えてしまうかもしれません。けれども仕事の困りごとは、ご本人の力だけで決まるものではなく、仕事の任され方との組み合わせで表に出ることがあります。ここでは、困りごとの整理の仕方と、工夫の分け方をご説明します。

困りごとを「場面」で書き出す

どの場面で困っているのかを書き出してみると、打てる手が見えてくることがあります。例えば、次のような場面です。

  • 口頭で、一度にいくつもの指示を受けたとき
  • 手順や担当が途中で変わったとき
  • 急ぎの仕事が割り込んできたとき
  • 報告や質問のタイミングを自分で判断する必要があるとき
  • 作業の速さを求められたとき

これらは、境界知能の方に共通する特徴として挙げているものではありません。あくまで書き出すときの手がかりです。あわせて、困らずにできている場面も書いておくと、自分に合う条件が見えてきます。書き出したメモは、後でご紹介する相談窓口で状況を説明するときの材料にもなります。

自分でできる工夫と、職場に頼みたい工夫を分ける

困る場面が見えてきたら、次に工夫を「自分でできること」と「職場に頼みたいこと」に分けてみます。

自分でできる工夫の例としては、メモを取る場所を一つに決める、教わった手順を自分の言葉で書き直して確認してもらう、分からないときの質問の仕方をあらかじめ決めておく、などがあります。

職場に頼みたい工夫の例としては、指示を一つずつ出してもらう、手順を書面や見本で示してもらう、質問する相手を決めてもらう、慣れるまで仕事の量を調整してもらう、などが考えられます。職場に頼む工夫は、後の章でご説明する「合理的配慮」とも関わります。

どちらか一方だけで解決しようとせず、両方を組み合わせて考えることが大切です。職場に頼むときは、自分で試してみた工夫と、それでも難しかった点をあわせて伝えると、職場と話し合うときの材料になります。

続かない・行けない状態が続くときは、一人で抱えない

転職を繰り返している、職場に行けない日が続いている、といった状態が長引くときは、一人で抱え込まずに外部の窓口を頼ることを考えてみてください。仕事の問題とは別に、心身の不調が関わっていることもあります。体調が気になる場合は、医療機関を受診することも考えてみてください。

知的障がいのある方の仕事が続かないときの考え方は、知的障がいのある方の仕事が続かないとき|5つの配慮と相談先で整理しています。相談先を考えるうえで、境界知能の方にも参考になる部分があります。仕事の続け方について相談できる窓口は、次の章で整理しています。

手帳がなくても相談できる窓口|境界知能の方の仕事の相談先

境界知能であることだけでは、障害者手帳の対象にならない場合があります(詳しくは次の章でご説明します)。手帳がないと相談できる場所はないのでは、と感じるかもしれませんが、手帳の有無で利用の可否が決まる制度と、決まらない制度があります。ここでは主な窓口を表で整理したうえで、特に誤解されやすい障害福祉サービスについてご説明します。

窓口主な内容手帳の扱い(公的資料の記載)注意点
ハローワーク(障がいのある方の専門窓口)職業相談、職業紹介「障害者手帳をお持ちでない方も利用できます」一般の窓口は誰でも利用できます
地域障害者職業センター職業評価、職業準備支援、ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援「手帳の有無を問わず利用できます」利用は無料。各都道府県に設置。利用方法は各センターにご確認ください
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)仕事と生活の両面の相談資料に記載なし運用がセンターごとに異なるため、お近くのセンターにご確認ください
地域若者サポートステーション(サポステ)働くための相談、講座対象の条件として示されていません主な対象は、15歳~49歳で、仕事をしていない方や就学中でない方。詳しい条件はお近くのサポステにご確認ください
障害福祉サービス(就労移行支援・就労継続支援など)就職に向けた訓練、支援を受けながら働く場手帳がなくても利用できる場合があります障がいの種類に応じた対象確認と、市区町村の支給決定が必要。知的障がいの確認方法は下記のとおり

出典:ハローワークインターネットサービス「障害のある方の求職情報の入力方法について」独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)北海道障害者職業センター「FAQ よくある質問」厚生労働省「障害者就業・生活支援センターについて」(令和8年4月現在)厚生労働省「地域若者サポートステーション」

地域障害者職業センターとなかぽつの役割は、地域障害者職業センターとは障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)とはでそれぞれ詳しくご説明しています。

障害福祉サービスを「手帳なしでも使える」とだけ覚えないでください

インターネット上には、「医師の意見書があれば、手帳がなくても就労移行支援を利用できる」という説明が見られます。これは間違いではありませんが、条件を省いた説明です。

厚生労働省の「介護給付費等に係る支給決定事務等について(事務処理要領)」(最終改正 令和8年7月)は、支給決定の対象となる障がいのある方であることの確認方法を定めています。確認方法は障がいの種類ごとに分かれており、知的障がいについては次のとおりです。

① 療育手帳
② 療育手帳を有しない場合は、市町村が必要に応じて知的障害者更生相談所に意見を求めて確認する。

一方、精神障がい(発達障がいを含む)については、精神障害者保健福祉手帳のほか、精神障害を事由とする年金を現に受けていることを証明する書類、自立支援医療受給者証(精神通院医療に限る)、医師の診断書などで確認するとされています。医師の診断書は、原則として主治医が記載し、国際疾病分類(ICD-10)のコードを記載するなど、精神障害者であることが確認できる内容であることとされています。

つまり、事務処理要領で医師の診断書が確認書類として挙げられているのは、精神障がい(発達障がいを含む)や難病等の項目で、知的障がいの項目には挙げられていません。境界知能であることだけで、障害福祉サービスの対象になるとは限りません。利用できるかどうかは市区町村が判断するため、まずは市区町村の障害福祉の窓口や相談支援事業所に状況を伝えてみてください。

相談支援事業所の役割は相談支援事業所とはで、就労移行支援の対象や期間は就労移行支援とはでご説明しています。

就労選択支援を利用できるのは誰か

令和7年10月に始まった就労選択支援は、作業体験や面談を通じたアセスメント(評価)で、働き方の選択を支える障害福祉サービスです。利用の対象は、厚生労働省の資料で「就労移行支援又は就労継続支援を利用する意向を有する者及び現に就労移行支援又は就労継続支援を利用している者」とされています。

誰でも受けられる適職診断ではなく、市区町村の支給決定が必要なため、上でご説明した確認方法がそのまま関わってきます。制度の詳しい内容は就労選択支援とはをご覧ください。

最初に相談する窓口の選び方

どの窓口から相談すればよいかは、今の状況と相談したい内容によって変わります。目安としては次のように考えられます。

  • 今の職場での困りごとを相談したい … ハローワークの専門窓口、なかぽつ、地域障害者職業センター
  • 自分に合う働き方を、検査や作業を通じて確かめたい … 地域障害者職業センターの職業評価
  • 今は働いておらず通学もしていない、何から始めればよいか分からない(15〜49歳) … サポステ、ハローワーク
  • 訓練や、支援を受けながら働く場を利用したい … 市区町村の障害福祉の窓口、相談支援事業所

どの窓口から始めても、内容に応じて別の窓口を紹介してもらえることがあります。迷いすぎず、まずは一か所に状況を伝えてみてください。

療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・障がい者雇用枠との関係

「境界知能で手帳はもらえるのか」「障がい者雇用枠で働けるのか」も、調べられている疑問です。ここでは、手帳の種類ごとの位置づけと、障がい者雇用枠との関係を整理します。手帳の対象になるかどうかは、個別に判定機関や自治体が判断します。

療育手帳の対象になるかは、自治体の判定によります

療育手帳は、法律ではなく国の通知に基づいて、都道府県・指定都市が運用している制度です。程度の判定は、厚生省児童家庭局長通知「療育手帳制度の実施について」(昭和48年9月27日 児発第725号)が定めています。重度を「A」、その他を「B」としたうえで、中度などの他の区分を定めることも差し支えないとしています。

判定の目安となる知能指数の上限も、自治体の判定機関によって異なります。厚生労働省の資料によると、平成30年度障害者総合福祉推進事業「知的障害の認定基準に関する調査研究」は、判定を行う児童相談所・知的障害者更生相談所129機関を調べています。その約8割が、概ねIQ70または75を上限としていました(概ねIQ75が52%、概ねIQ70が27%、その他が21%)。「その他」には、IQが上限を超えていても発達障がいの診断などをあわせて判断する例が含まれています(出典:厚生労働省 第147回障害者部会 資料2厚生労働省 判定基準統一化の検討進捗報告)。

このため、「IQがいくつ以下なら療育手帳が取れる」と全国一律に言うことはできません。境界知能と説明される範囲と、療育手帳の対象範囲との重なり方も、自治体によって異なります。

また、厚生労働省は判定基準の全国統一に向けて、「知的機能」と「適応行動」(日常生活の中での力)の2つの軸で評価する検査(ABIT-CV)の実装を目指しています。令和7〜9年度の研究では、モデル自治体での試行などを行う予定としています(前掲 資料2、令和7年6月26日)。判定の方法は今後変わる可能性があるため、最新の取扱いはお住まいの自治体にご確認ください。

療育手帳で軽度と判定された方の仕事については、軽度知的障がいのある方の仕事|向いている仕事の決め方3つで整理しています。療育手帳の区分(A・B1・B2など)と働き方の関係については、療育手帳の区分と働き方|B2・B1・Aの違いを行政書士が解説で詳しくご説明しています。

精神障害者保健福祉手帳は、境界知能そのものを理由とする手帳ではありません

精神保健福祉法第5条は、精神障害者を「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害その他の精神疾患を有する者」と定めています。そのうえで第45条第1項は、「精神障害者(知的障害者を除く。…)は、…精神障害者保健福祉手帳の交付を申請することができる」としています。知的障がいのある方の手帳は療育手帳であり、この手帳は知的障がいを除く精神疾患のある方が対象です。

最初の章でご説明したとおり、境界知能はDSM-5(2013年)で、独立した精神疾患ではなく「臨床的関与の対象となることのある他の状態」に位置づけられています。そのため、境界知能であることそのものが、この手帳の交付理由になるわけではありません。発達障がいなど別の診断がある場合に交付されるかどうかは、医師の診断書などをもとに都道府県・指定都市が判断します。医療上の判断については、主治医にご確認ください。

障がい者雇用枠と、手帳・判定書の関係

障害者雇用率制度の対象となる「対象障害者」は、障害者雇用促進法第37条第2項で、身体障害者、知的障害者、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る)と定められています。精神障がいは手帳の所持が条件です。一方、知的障がいについては、手帳のほかに「判定書」による道があります。

障害者雇用促進法施行規則第1条の2は、知的障害者判定機関として、児童相談所・知的障害者更生相談所・精神保健福祉センター・精神保健指定医・障害者職業センターを定めています。そして知的障害者を、これらの機関により「知的障害があると判定された者」としています。制度上は、療育手帳がなくても判定によって対象となる仕組みがあります。ただし判定の結果は個別の判断であり、境界知能の方が判定を受ければ対象になる、という意味ではありません。

障害者専用求人では、雇用率の算定との関係から、応募の条件として手帳などを求められる場合があります。一方で、一般の求人に応募することはでき、障がいや困りごとを職場に伝えるかどうかは、求人の区分とは別の問題です。

職場に伝えるか、配慮を求めるか

境界知能であることや、仕事での困りごとを職場に伝えるかどうか、迷う方もいると思います。ここでは、伝えるかどうかの考え方と、職場に配慮を求める仕組みである「合理的配慮」についてご説明します。

伝えるかどうかは、ご本人が決めることです

求人の区分(一般求人/障害者専用求人)と、障がいや困りごとを伝えるかどうかは別の問題です。一般の求人に、困りごとを伝えたうえで応募することもできます。伝えるかどうか、いつ誰に伝えるかは、ご本人が決めることです。

伝える場合は、「境界知能です」という言葉だけを伝えるのではなく、困る場面と、頼みたい工夫を具体的に伝える方法もあります。前の章で書き出したメモが役に立ちます。伝え方に迷うときは、相談窓口の職員と一緒に整理することもできます。

合理的配慮は、手帳を持つ人に限られません

障害者雇用促進法により、事業主は平成28年(2016年)4月から、障がいのある方への合理的配慮の提供が義務になっています。厚生労働省のリーフレットは、対象となる障害者について「障害者手帳を持っている方に限定されません」と明記しています。

ただし、対象となるのは先にご紹介した法第2条第1号の「障害者」であり、境界知能の方が当てはまるかどうかは、個々の状況によります。

合理的配慮の内容は、話合いで決めるのが基本です。厚生労働省の「合理的配慮指針」は、採用後の配慮について、次の流れを示しています。事業主が職場で支障となっている事情の有無を確認し、本人が希望する措置の内容を確認したうえで話し合い、講ずることとした措置の内容を本人に伝えます。本人が希望する措置を具体的に申し出ることが難しい場合は、事業主が実施可能な措置を示して話し合うこととされています。

希望した措置が事業主にとって過重な負担に当たる場合、事業主は実施できない旨を伝え、求めに応じてその理由を説明します。また、話合いの下、本人の意向を十分に尊重したうえで、過重な負担にならない範囲で措置を講ずることとされています。

法律上の合理的配慮に当たるかどうかにかかわらず、困りごとを伝えて職場と工夫を話し合うことは、いつでも始められます。

職場で教える立場の方へ

職場で仕事を教える立場の方に向けて補足します。知的障がいのある方への仕事の教え方については、知的障がいのある方への仕事の教え方|国の指針が示す5つの配慮で、国の指針に沿って整理しています。ただし、境界知能は指針の障がいの区分には含まれていないため、その内容がそのまま当てはまるとは限りません。

事業主向けには、地域障害者職業センターが、雇用管理に関する助言やジョブコーチの派遣などの支援を行っています。

境界知能と仕事に関するよくある質問

最後に、境界知能と仕事について、調べられている疑問にお答えします。本文と重なる部分は要点だけを示し、詳しくは各章をご覧いただければと思います。

Q1. 境界知能とグレーゾーンの違いは何ですか?

「グレーゾーン」は正式な用語ではなく、使う人や場面によって意味が変わる言葉です。発達障がいの特性があるものの診断基準は満たさない状態を指して使われることもあれば、境界知能を指して使われることもあります。

一方、境界知能は、知能検査の結果がおおむね70〜84の範囲にある状態を指す言葉です。どちらも、それだけで障害者手帳や支援制度の対象になるかどうかが決まる言葉ではありません。誰かに「グレーゾーン」と言われたときは、何を指しているのかを確かめておくと、相談先を選ぶときに役立ちます。

Q2. 境界知能でも一般企業で働けますか?

境界知能であることを理由に、一般企業で働けないという決まりはありません。実際に一般企業で働いている方もいます。

職種の名前だけで判断せず、仕事内容や指示の伝え方、相談できる相手など、先にご紹介した5つの条件がご自身に合っているかを確かめることが大切です。

Q3. 家族として何ができますか?

ご家族ができることとして、困りごとを場面ごとに書き出す作業を一緒に行ったり、相談窓口に同行したりすることが考えられます。サポステのように、ご家族からの相談を受け付けている窓口もあります。

ただし、働き方を決めるのはご本人です。ご家族が先回りして決めるのではなく、ご本人の考えを聞きながら一緒に選択肢を確かめていく姿勢が大切です。

Q4. 境界知能で障害年金は受けられますか?

障害年金は、障がいの状態などによって個別に判断される制度です。受給の見込みについて、当サイトでお答えすることはできません。障害年金については、社会保険労務士へのご相談をおすすめします。

まとめ

境界知能と仕事について、言葉の位置づけと使える制度を中心にご説明しました。要点は次のとおりです。

  • 境界知能は、知能検査の結果がおおむね70〜84の範囲にある状態を表す言葉で、独立した精神疾患ではありません。「7人に1人」は理論上の割合です
  • 境界知能という言葉だけで、向いている職種は決まりません。職種の名前だけで判断せず、仕事内容や指示の伝え方など5つの条件を確かめることが大切です
  • ハローワークや地域障害者職業センターなど、手帳がなくても利用できる窓口があります
  • 障害福祉サービスは、手帳がなくても利用できる場合がありますが、知的障がいとして利用する場合は、療育手帳がなければ市町村が必要に応じて知的障害者更生相談所の意見を聞いて確認します
  • 合理的配慮の対象は手帳を持つ方に限られませんが、対象になるかどうかは個々の状況によります

知的障がいのある方の仕事について、就職先のデータや働き方の選択肢を知りたい方は、知的障がいのある方の仕事もあわせてご覧ください。

「仕事ができない」と感じたときは、まず困る場面を書き出し、それを持って相談窓口を訪ねてみてください。制度は改正されることがあるため、最新の情報は厚生労働省などの公的機関のサイトでご確認ください。

※ 本記事は行政書士 横関のプロフィールが運営する障がいビズが発信しています。

よこぜき行政書士事務所