目次
はじめに
就労移行支援は、一般企業への就職を目指す障がいのある方が、必要な知識やスキルを身につけるために通所する障害福祉サービスです。
令和7年(2025年)10月には新サービス「就労選択支援」が施行され、就労系サービス全体における就労移行支援の位置づけにも変化が生じています。
「自分は対象になるのか」「どれくらいの期間使えるのか」「料金はどうなるのか」と疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、就労移行支援について、対象者、利用期間、サービス内容、他の就労系サービスとの違い、利用までの流れまで、行政書士の視点でわかりやすくご説明したいと思います。
当事者の方やご家族はもちろん、支援員や事業所運営者の方にも少しでも参考になれば幸いです。
就労移行支援とは?
就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく訓練等給付の一つで、一般就労を希望する障がいのある方への通所型の訓練サービスです。
利用期間は原則2年間で、職業訓練から求職活動、就職後の定着支援までを一体的に提供する点が特徴です。
ここでは法律上の根拠と、就労移行支援が担う5つの機能を整理します。
就労移行支援の定義と法的根拠
就労移行支援は、障害者総合支援法第5条第14項で次のように定義されています。
この法律において「就労移行支援」とは、就労を希望する障害者及び通常の事業所に雇用されている障害者であって主務省令で定める事由により当該事業所での就労に必要な知識及び能力の向上のための支援を一時的に必要とするものにつき、主務省令で定める期間にわたり、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の主務省令で定める便宜を供与することをいう。
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律
つまり、就労を希望する方が、訓練を通じて働くために必要な力を身につけられるよう、国が定めた福祉サービスとして整備された制度です。
実施主体は民間の福祉事業者が中心で、雇用契約を結ぶサービスではないため、賃金や最低賃金の対象には通常なりません。
ただし、生産活動に従事する場合は、事業収入から必要経費を控除した額が工賃として支払われる場合があります。
なお、令和7年10月の改正障害者総合支援法施行に伴い、就労選択支援が同条第13項として新たに加わり、就労移行支援の項番号は従前の第13項から第14項に変更されています。
就労移行支援が担う5つの機能
就労移行支援は、単なる職業訓練の場ではなく、就労に向けた一連のプロセスを支える機能を担っています。
具体的には、ステップアップのための中間的環境、職業適性などのアセスメント機能、自己理解を支援し就労意欲を高める機能、適した職場とのマッチング機能、就職直後から長期にわたるフォローアップ機能の5つが挙げられます。
これらを切れ目なく提供することで、当事者の方が就労の不安を一つひとつ解決しながら、次のステップに進めるよう設計されています。
就労移行支援の対象となる方
就労移行支援を利用できるのは、原則として65歳未満の障がいのある方で、一般就労を希望し、知識や能力の向上が見込まれる方です。
年齢や障がい種別の要件のほか、障がい者手帳の有無や、在学中・休職中の場合の取扱いについても整理しておきましょう。
ここでは、対象となる方の条件を3つの観点から確認します。
年齢と障がいの要件
就労移行支援の対象は、原則18歳以上65歳未満の方です。65歳の誕生日前日までは利用できますが、65歳以上であっても、65歳に達する前の5年間に継続して障害福祉サービスの支給決定を受けていて、65歳の前日において就労移行支援の支給決定を受けていた方は引き続き利用できる場合があります。
対象となる障がいは、身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含みます)、障害者総合支援法の対象難病(令和7年4月時点で376疾病)です。
難病については、厚生労働省の指定する疾病に該当することが要件となります。
障がい者手帳がない場合の利用
障がい者手帳をお持ちでない方も、主治医の診断書や意見書、自治体の判断によっては就労移行支援を利用できる場合があります。
たとえば、うつ病で通院中だが手帳を取得していない方や、対象難病に該当する方などが挙げられます。
ただし、自治体ごとに運用が異なるため、お住まいの市区町村の障害福祉窓口で事前に確認することをおすすめします。
在学中・休職中の利用可否
在学中の方や休職中の方も、一定の条件を満たせば就労移行支援を利用できる場合があります。
在学中の場合は、卒業年度であること、大学等の支援機関による就職支援が見込めない、または困難であること、市区町村が就労につながる効果を認めることなどの条件があります。
休職中の方については、復職に向けた訓練の場としての利用が認められるケースもありますが、こちらも自治体の判断によります。
制度全体の根拠については障害者総合支援法の解説記事もあわせてご参照ください。
利用期間と利用料金
就労移行支援は、利用期間と利用料金がいずれも法令で定められた仕組みになっています。
期間は原則2年間ですが延長制度や一部例外もあり、料金は世帯の所得に応じた4区分の負担上限が設けられています。
実際にどの程度の費用がかかるのかを具体的に見ていきましょう。
標準利用期間は原則2年間
就労移行支援の標準利用期間は、原則として2年間です。
この期間内に、生活リズムの安定、ビジネスマナーや職業スキルの習得、求職活動、就職へと段階的に進んでいきます。
ただし、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の養成施設を利用する場合は、養成課程の年限に応じて標準利用期間が3年または5年となる例外があります。
2年で就職に至らなかった場合は、市町村審査会の個別審査を経て、必要性が認められた場合に限り最大1年間の延長が可能です。
また、2年の期間内であれば、自治体の判断により再利用が認められる場合もあります。
再利用の可否は市区町村ごとに異なるため、事前の確認が必要です。
利用料金の仕組み(4区分の負担上限)
就労移行支援は、原則としてサービス費用の1割が利用者負担となりますが、世帯の所得に応じて月額の負担上限が設定されています。
具体的には次の4区分です。
- 生活保護世帯: 月額0円
- 市町村民税非課税世帯(低所得): 月額0円
- 一般1(市町村民税課税世帯のうち、収入が概ね670万円以下の世帯): 月額9,300円
- 一般2(上記以外の課税世帯): 月額37,200円
ここでいう「世帯」は本人と配偶者の世帯であり、親は含まれません。
所得区分によっては月額0円となる方も多く、賃金や工賃を目的としない訓練サービスとしての位置づけが反映された仕組みです。
なお、交通費や昼食費は基本的に自己負担(自治体によっては助成あり)となります。
就労移行支援で受けられる4つの支援
就労移行支援では、就職までの道のりに沿って4つの支援が一体的に提供されます。
利用者の方は事業所に通いながら、訓練、体験、就職活動、就職後の定着支援を順に受けていく流れです。
それぞれの支援内容を順にご説明します。
知識・能力向上のための訓練
事業所では、ビジネスマナー、コミュニケーション、パソコンスキル、健康管理、ストレスマネジメントなど、働き続けるために必要な力を学びます。
事業所ごとにIT、事務、軽作業、デザイン、農業など特色あるプログラムが用意されており、利用者の希望や適性に応じて選べることが多いです。
職場体験・企業実習
事業所内での訓練に加えて、実際の企業で職場体験や実習を行う機会も提供されます。
協力企業での実習を通じて、職場の雰囲気を体感し、自分に合った職場像を具体化していきます。
施設外支援に積極的な事業所ほど、一般就労につながりやすい傾向があると報告されています。
求職活動への支援
履歴書や職務経歴書の添削、自己分析、企業研究、模擬面接、応募書類の作成支援など、就職活動全般を支援員がサポートします。
ハローワークの障害者窓口や、地域障害者職業センターなどの関係機関とも連携しながら、適性に合った職場探しを進めていきます。
就職後の職場定着支援
就労移行支援では、就職して終わりではなく、職場に定着できるよう一定期間のフォローを行います。
多くの場合、就職後6か月間は定着支援が実施され、その後は別サービスである就労定着支援(最長3年間)に引き継ぐ流れです。
本人・企業・事業所の三者面談など、長く働き続けるための環境調整が行われます。
他の就労系サービスとの違い
障害福祉サービスには、就労移行支援のほかにも複数の就労系サービスがあります。
それぞれ目的や対象者が異なるため、自分の状況に合うサービスを選ぶことが大切です。
ここでは、就労継続支援A型・B型、令和7年10月に施行された就労選択支援、ハローワークとの違いを整理します。
就労継続支援A型・B型との違い
就労継続支援は、一般就労が現時点では難しい方が、福祉的な配慮を受けながら働く場として位置づけられています。
就労継続支援A型は雇用契約を結び最低賃金が保証されますが、就労継続支援B型は雇用契約を結ばず工賃を受け取る形です。
一方、就労移行支援は「2年以内の一般就労」を目指す訓練サービスである点が大きく異なります。
利用期間の制限がない就労継続支援に対して、就労移行支援は標準2年という期限の中で集中的に就労準備を進める制度といえます。
就労選択支援との関係(令和7年10月施行)
令和7年(2025年)10月1日に施行された就労選択支援は、就労に関する適性や能力、意向を短期間のアセスメントで評価し、適切な就労先や働き方を選ぶための新しいサービスです。
支給決定期間は原則1か月で、就労移行支援などの利用前段階に位置づけられています。
新たに就労継続支援B型を利用する方は、原則として令和7年10月以降、申請前に就労選択支援を利用する仕組みとなりました。
一方、就労移行支援を新たに利用する方は、現時点では希望に応じて就労選択支援を利用できる扱いです。
さらに、令和9年(2027年)4月以降は、新たに就労継続支援A型を利用する場合や、就労移行支援の標準利用期間を超えて更新を希望する場合に、原則として就労選択支援が前置される方向で運用が予定されています。
ただし、面接や職場実習など一般就労に向けた具体的な予定があり、事業所が「明らかに就職可能性がある」と判断した方については、標準利用期間を超えて更新する場合でも就労選択支援の利用は原則となりません。
ハローワークの障害者窓口との違い
ハローワークは厚生労働省が運営する公的な就職支援機関で、求人紹介や雇用保険の手続きを行います。
就労移行支援は、就職活動だけでなく訓練や定着支援まで含む福祉サービスである点が異なります。
両者は連携して支援を進めることが多く、併用するケースも珍しくありません。
就労移行支援を利用するまでの流れ
就労移行支援を利用するには、事業所探しから市町村への申請まで、いくつかのステップを踏む必要があります。
一般的な流れを2つのステップで整理しておきましょう。
事業所や自治体によって手順が前後する場合もあるため、参考としてご確認ください。
事業所探しと見学・体験
まずは通える範囲にある事業所を探します。
市区町村の障害福祉窓口、相談支援事業所、インターネットの事業所検索サイト、ハローワークの障害者窓口などが情報源になります。
気になる事業所が見つかったら、見学や体験通所を申し込み、プログラム内容、雰囲気、支援員との相性、就職実績などを確認しましょう。
複数の事業所を比較してから決めることが推奨されます。
市町村窓口での申請とサービス等利用計画
利用したい事業所が決まったら、市区町村の障害福祉窓口で利用申請を行います。
申請後、指定特定相談支援事業者が「サービス等利用計画案」を作成し、市町村が支給決定の可否を判断します。
支給決定が下りると「障害福祉サービス受給者証」が交付され、事業所と契約のうえ、利用開始となります。
なお、訓練等給付に分類される就労移行支援は、原則として障害支援区分の認定は不要です。
就労移行支援の現状と今後の動向
就労移行支援は、就労系サービスの中でも一般就労への移行率が高いサービスです。
一方で、事業所間の格差や事業所数の動向など、いくつかの課題も指摘されています。
ここでは、最新の統計と政策動向を確認しておきます。
一般就労移行率と事業所数の推移
厚生労働省「就労支援施策の対象となる障害者数/地域の流れ」(社会福祉施設等調査、国保連データ等を基に作成)によると、就労移行支援を終了した方のうち一般就労に移行した方の割合は、令和4年(2022年)57.2%、令和5年(2023年)58.8%、令和6年(2024年)60.2%と年々上昇しています。
一方で、事業所間の格差も大きく、移行率20%以上の事業所が4割を超える一方、移行率0%の事業所も約3割存在するとの報告があります。
事業所数は平成30年の3,503か所をピークに漸減傾向が続いており、令和7年3月時点の利用者数は約3.7万人と報告されています。
雇用と福祉の連携強化の流れ
令和4年(2022年)の法改正(令和4年法律第104号)により、就労選択支援の創設、短時間労働者の実雇用率算定、障害者雇用調整金の見直しなど、雇用と福祉の連携を強化する施策が順次進められています。
さらに、就労支援人材の質を担保する取組として、障害者就労支援士検定(仮称)の整備が議論されています。
まずは厚生労働省指定の民間検定として整備し、安定的な運営が確認された段階で将来的な国家資格化も検討する方向で議論が進められており、就労移行支援を含む就労系サービスの専門性向上が期待されています。
よくある質問
ここでは、就労移行支援に関してよく寄せられる質問を3つ取り上げ、簡潔にお答えします。
個別のケースについては、お住まいの市区町村の障害福祉窓口や事業所にご確認ください。
Q1: 2年で就職できなかった場合はどうなりますか?
標準利用期間の2年で就職に至らなかった場合は、市町村審査会の個別審査を経て、必要性が認められれば最大1年間の延長が可能です。
延長によっても就職に至らない場合は、就労継続支援A型・B型などほかの就労系サービスに移行する選択肢も検討されます。
今後は、令和9年4月以降に標準利用期間を超えて更新を希望する場合、原則として就労選択支援を前置する方向で運用が予定されています。
Q2: 障がい者手帳がなくても利用できますか?
障がい者手帳をお持ちでなくても、主治医の診断書や意見書があり、自治体が必要性を認めた場合には利用できる可能性があります。
たとえば、うつ病等で通院中だが手帳未取得のケースや、対象難病に該当する方が該当します。
ただし、運用は自治体ごとに異なるため、市区町村の窓口での事前確認が大切です。
Q3: 就労移行支援と就労選択支援はどちらを先に使うべきですか?
新たに就労移行支援を利用する場合、現時点では希望に応じて事前に就労選択支援を利用できる位置づけです。
就労選択支援は短期間(原則1か月)のアセスメントで適性や意向を整理するサービスで、自分にどの就労系サービスが合うか迷っている方に適しています。
一方、すでに一般就労に向けた具体的な準備を始めたい方は、就労移行支援に直接申し込む選択も可能です。
両者の違いは就労選択支援と就労移行支援の違いを詳しく解説した記事でも整理しています。
まとめ
就労移行支援は、一般就労を目指す障がいのある方への通所型訓練サービスです。最後に、本記事のポイントを振り返ります。
- 対象は原則18歳以上65歳未満の障がいのある方で、手帳がなくても利用できる場合がある
- 標準利用期間は2年間(あん摩マッサージ指圧師等の養成施設は3年または5年の例外あり)、世帯所得に応じた4区分の月額負担上限がある
- 訓練・職場体験・求職活動・定着支援の4つを一体的に受けられる
- 令和6年の一般就労移行率は60.2%と過去最高、令和7年10月施行の就労選択支援との関係性も整理が進む
制度は法改正によって運用が変わる可能性があるため、最新情報は厚生労働省: 障害者の就労支援対策のサイトや管轄の市区町村窓口でご確認ください。
個別のケースについては、相談支援事業所や事業所にご相談いただくことをおすすめします。
※ 本記事は行政書士 横関のプロフィールが運営する障がいビズが発信しています。
よこぜき行政書士事務所


