
近年、障がいのある方の雇用を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。
法定雇用率の引上げが進む一方で、就労支援を担う人材の質の確保が課題として挙げられています。
こうした流れのなかで注目されているのが「障害者就労支援士」です。
ただし、この資格をめぐっては「国家資格なのか」「いつから受けられるのか」といった情報が錯綜しているのが現状です。
本記事では、障害者就労支援士について、厚生労働省の一次資料に基づき、その位置づけ・受験資格・試験科目・今後のスケジュールを分かりやすくご説明したいと思います。
目次
障害者就労支援士とは?
障害者就労支援士(正式には「障害者就労支援士(仮称)」)は、障がいのある方の就労支援に関する専門的な知識・技能を認定することを目的とした資格です。
まず押さえておきたいのは、現時点で確定した国家資格ではなく、民間の検定として整備が進められている段階だという点です。
ここでは、その役割と段階的な位置づけを整理します。
障害者就労支援士の役割
障害者就労支援士は、障がいのある方一人ひとりの希望や適性を踏まえ、就労に向けた準備から職場への定着までを支える専門人材を想定した資格です。
具体的には、本人の状況を把握するアセスメント、個別の支援計画の作成、企業や関係機関との連携、就職後の定着支援など、幅広い役割を担うことが期待されています。
障がい者就労支援に関する総合的な知識・技能を持つ「中級レベル」の人材を想定していると報告されています(厚生労働省「職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会 取りまとめ」令和7年3月)。
「検定(仮称)」という段階的な位置づけ
注意したいのは、名称や制度設計がまだ確定していない点です。
厚生労働省の資料では、資格名は「障害者就労支援士(仮称)」、検定名は「障害者就労支援士検定(仮称)」と表記されており、正式名称は今後固まっていく見込みです。
また、この資格はいきなり国家資格として始まるわけではありません。
まずは業界団体が運営する民間検定として整備し、厚生労働省がこれを指定する形でスタートする方針が示されています。
その後、検定が安定的に運営できる段階に至れば、将来的な国家資格化を検討するとされています。
インターネット上では「すでに国家資格になった」と説明されることもありますが、現時点では正確ではない点に注意が必要です。
なぜ創設が検討されているのか
障害者就労支援士の創設は、思いつきで進められているものではなく、雇用と福祉をつなぐ政策的な流れのなかに位置づけられています。
ここでは、その背景と目的を整理します。
雇用と福祉施策の連携強化という流れ
障がいのある方の就労支援は、長らく「雇用(労働行政)」と「福祉(障害福祉サービス)」という別々の枠組みで進められてきました。
この両者の谷間で、必要な支援を受けられない方がいることが課題として指摘されてきました。
そこで厚生労働省は、雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会などで継続的に議論を重ねてきました。その流れのなかで、専門人材を育成・確保するための仕組みとして検討されたのが障害者就労支援士です。
令和7年(2025年)3月に取りまとめられた「職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会」の報告書では、資格の目的や求める人物像、検定の名称イメージ、試験科目のイメージなどが示されました。
人材の確保・処遇改善という狙い
障害者就労支援士が目指すのは、就労支援に携わる人材の認知度を高め、人材の確保や処遇の改善につなげることです。
各種研修と組み合わせることで円滑な人材育成を図り、就労支援体制全体を強化することがねらいとされています。
専門性が可視化されることで、障がいのある方への支援の質の向上にもつながることが期待されています。
受験資格と試験の概要
ここからは、多くの方が知りたい受験資格と試験内容を見ていきます。
いずれも現時点では検討段階の「案」であり、今後変更される可能性がある点を前提にお読みください。
受験資格の案
報告書では、受験資格として次のいずれかを満たす方が想定されています。
一定の実務経験や研修修了がある就労支援の従事者を対象とする内容です。
| 要件のパターン | 内容(案) |
|---|---|
| 実務経験 | 障がい者就労支援の実務経験が3年以上ある方 |
| 研修+従事 | 職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修を修了し、障がい者就労支援に従事している方 |
ここでいう就労支援の場には、障害者就業・生活支援センター、自治体の就労支援機関、ハローワーク、就労継続支援事業所、就労移行支援事業所などが含まれると考えられています。
なお、求められる技能の水準は「中級レベル」とされており、将来的には初級・上級の創設も検討されていると報告されています。
学科試験のモデル試験科目(10科目)
試験は学科試験とされています。
多肢選択式やCBT(コンピューターを使った試験)方式などの出題形式については、モデル問題の作成に関する検討会で検討が進められている段階です。
科目は、就労支援分野の横断的な知識・技能を整理した内容で、令和7年3月の取りまとめでは別添として次の10科目が示されています(科目名は原文の表記に従います)。
- 就労支援の理念・目的、障害者雇用の現状と障害者雇用・福祉施策
- 就労支援のプロセス(インテーク〜職業準備性の向上のための支援)
- 就労支援のプロセス(求職活動支援〜定着支援)
- 就労支援機関、専門職の役割と連携
- 障害特性と職業的課題(身体・知的・精神・発達障害、高次脳機能障害、難病など)
- 労働関係法規の基礎知識
- 企業に対する支援
- ケースマネジメントと職場定着のための生活支援・家族支援
- アセスメント
- 企業における障害者雇用の実際
これらは厚生労働省「障害者就労支援士検定(仮称)モデル試験科目及びその範囲並びにその細目」(令和7年3月取りまとめ別添)に基づくモデル科目です。
なお、その後のモデル問題作成に関する検討会では、作問を円滑に進めるため、これらの科目を出題領域として整理する検討も進められています。
最終的な科目構成・出題範囲は今後の検討で確定する見込みです。
障害者就労支援士はいつから始まる?今後のスケジュール
「障害者就労支援士はいつから受けられるのか」は、最も関心の高い点の一つです。
ここでは、現時点で示されている見通しを整理します。
試験開始の時期はどうなる?
報告書では、令和7年(2025年)度以降にモデル問題作成のための検討会を開催し、モデル問題を作成するとされています。
その後、業界団体の設立、厚生労働省による検定の指定、実施に向けた準備を経て、検定が実施されるという段階的な道筋が示されています。
検定が実施される具体的な時期は、現時点では公表されていません。
実際、モデル問題の作成に関する検討会は令和8年(2026年)に入っても継続して開かれており、公式な検定開始日はまだ示されていない状況です(令和8年時点)。
正確な時期は、厚生労働省の公表資料や作業部会・検討会の続報でご確認ください。
国家資格化への段階的な道筋
前述のとおり、障害者就労支援士はまず民間検定として整備されます。
その後、民間検定として安定的に運営できる段階に達したところで、国家資格への移行が検討される流れです。
つまり「民間検定としてのスタート」と「将来的な国家資格化」は別々の段階であり、順を追って進められる点を理解しておくとよいでしょう。
関連する研修・資格との関係
障害者就労支援士は、既存の研修や資格と関わりの深い制度です。
似た名称の制度も多く混同されやすいため、それぞれの関係を整理します。
ジョブコーチ(職場適応援助者)との関係
ジョブコーチ(職場適応援助者)は、職場に出向いて障がい特性に応じた専門的な支援を行う人材で、配置型・訪問型・企業在籍型の3つの類型があります。
前述のとおり、ジョブコーチ養成研修の修了は、障害者就労支援士の受験資格の一つに位置づけられる案が示されています。
また、障害者就労支援士の検定は基礎的研修のカリキュラムを参考に整備されるため、資格を取得すると、ジョブコーチ養成研修の前提となる基礎的研修の受講が免除される仕組みが想定されています(厚生労働省 作業部会資料)。
職業評価やジョブコーチについて詳しくは、地域障害者職業センターの解説記事もご参照ください。
基礎的研修・就労選択支援員との違い
混同されやすいのが、令和7年(2025年)10月に施行された「就労選択支援」の支援員です。
就労選択支援員は、就労選択支援事業所に配置される人材で、養成研修の修了が要件とされる別の仕組みです。
障害者就労支援士が「就労支援人材全般の専門性を認定する検定」であるのに対し、就労選択支援員は「特定のサービスに配置される人材の要件」であり、目的も位置づけも異なります。
就労選択支援のしくみについては、就労選択支援事業所の解説記事で詳しくご説明しています。
資格取得が期待される効果と留意点
障害者就労支援士は期待される一方で、懸念の声もあります。
ここでは、現時点で指摘されている効果と留意点を、両面から整理します。
現場・利用者にとって期待される意義
期待される効果としては、就労支援人材の専門性が客観的に示されることが挙げられます。
専門性が可視化されることで、人材の確保や処遇改善につながり、結果として障がいのある方が受けられる支援の質の向上が期待されています。
事業所にとっても、職員の専門性を高める一つの目安になり得ると考えられます。
指摘されている懸念・課題
一方で、現場からは慎重な意見も聞かれます。
資格取得にかかる時間や費用の負担、資格取得そのものが目的化してしまう可能性、さらには資格制度によって支援が画一化し、一人ひとりに合わせた柔軟な対応が損なわれることへの懸念などが指摘されています。
制度設計にあたっては、こうした声を踏まえた丁寧な検討が求められると言えます。
よくある質問
最後に、障害者就労支援士について検索される機会の多い質問にお答えします。
Q1. 障害者就労支援士は国家資格ですか?
現時点では国家資格ではありません。まずは業界団体が運営する民間検定として整備され、厚生労働省がこれを指定する形でスタートする方針です。
将来的に検定が安定して運営できるようになった段階で、国家資格化が検討されるとされています。
Q2. いつから受験できますか?
令和7年(2025年)度以降にモデル問題の作成・検討が進められていますが、検定が実施される具体的な時期は、現時点では公表されていません。
業界団体の設立や厚生労働省による検定の指定などの準備を経て実施される見込みです。最新情報は厚生労働省の資料でご確認ください。
Q3. 誰でも受験できますか?
現在の案では、障がい者就労支援の実務経験が3年以上ある方、または職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修を修了して就労支援に従事している方が対象として想定されています。
一定の実務経験や研修修了が前提となる見込みです。
まとめ
障害者就労支援士は、障がいのある方の就労支援を担う人材の専門性を高め、確保していくための新しい取り組みです。
現時点で確定しているのは「まず民間検定として整備が進められている」という点であり、受験資格・試験科目・開始時期・国家資格化はいずれも検討・準備の段階にあります。
「すでに国家資格になった」といった情報も見られますが、正確には今後の動向を見守る必要があります。
制度の内容は今後変わる可能性があるため、最新情報は厚生労働省の公表資料でご確認ください。
障がいのある方の就労を支える仕組みは年々広がっており、関連する制度とあわせて理解しておくことが役立ちます。


