近年、就労継続支援B型事業所(以下、B型)は厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」の集計対象だけでも18,245事業所に上り、地域によっては利用者の獲得競争が激化しています。
こうしたなか、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSを通じて事業所の魅力を発信する取り組みが広がっています。一方で、利用者の肖像権や個人情報をどう守るか、職員の私的なSNS利用にどこまで一線を引くかなど、福祉サービス事業者ならではの課題も少なくありません。
本記事では、行政書士の視点から、就労継続支援B型事業所がSNSを活用するうえでの目的設定・プラットフォーム選び・運用体制・リスク管理について、わかりやすくご説明したいと思います。
目次
なぜ今、就労継続支援B型事業所でSNS活用が注目されているのか
B型事業所のSNS活用とは、X・Instagram・Facebook等を通じて事業所の活動や商品を発信し、利用者獲得・販路拡大・採用・地域連携に役立てる取り組みです。注目される背景には、大きく分けて2つの流れがあります。ひとつは利用者獲得競争の激化、もうひとつは平均工賃額の向上を後押しする情報発信の必要性です。ここでは、それぞれの背景を整理し、SNSがB型事業所にとってどのような意味を持つのかを確認します。
利用者獲得競争の激化と紹介経路の多様化
B型事業所数は増加傾向が続いており、厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」によれば、令和6年度の工賃集計対象は18,245事業所に上りました。事業所数の増加に伴い、利用者の方は自分に合う事業所を選びやすくなっています。
加えて、令和6年度報酬改定後にA型事業所の閉鎖・解雇が相次いだことを受け、B型に移行する利用者も増えており、選ばれる事業所であるための情報発信の重要性は一層高まっています。
従来は相談支援事業所や医療機関からの紹介が主な経路でしたが、ご本人やご家族が日常的にSNSで情報収集する傾向も強まっています。事業所側にとっては、SNSを通じた自然な情報発信が、見学・体験への第一歩を生むきっかけになり得ます。
詳しい制度動向は就労継続支援B型事業所の現状と課題もあわせてご参照ください。
商品販売・工賃向上を後押しする情報発信
B型の基本報酬は、平成30年度報酬改定以降、平均工賃月額に応じた報酬体系が導入されており、令和3年度改定では同体系の見直しや、利用者の就労や生産活動等への参加等を評価する報酬体系(一律評価型)の新設が行われました。さらに令和6年度改定では平均工賃月額の算定方式が見直され、令和8年度には臨時応急的な見直しが実施されています。工賃向上は事業所経営にも直結する重要な課題であり続けています。
全国平均工賃月額は令和6年度で24,141円(集計18,245事業所、厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」)と前年度比で上昇していますが、地域差・事業所差はなお大きい状況です。
SNSによる作品や商品の発信、イベント出店の告知、新規取引先との接点づくりは、販路拡大と工賃向上を地道に支える手段の一つと位置づけられます。
SNS活用の4つの目的と、目的別のプラットフォーム選び方
B型事業所のSNS運用でつまずきやすいのは、目的を明確にしないまま投稿を始めてしまうことです。「利用者を集めたい」「商品を売りたい」「職員を採用したい」「地域とつながりたい」では、選ぶプラットフォームも投稿内容も変わります。ここでは、SNS活用の4つの目的を整理し、それぞれにふさわしい使い方を考えていきます。
利用者・家族への情報発信(認知獲得)
新規の利用者やご家族に事業所を知ってもらうことを目的とする場合、日常の活動風景や作業の様子、施設の雰囲気を視覚的に伝えることが効果的です。
写真や動画と相性が良いInstagramが軸となり、より気軽な発信ができるX(旧Twitter)を併用するパターンも見られます。発信内容は、事業所選びに迷うご本人・ご家族の不安を和らげる視点で設計するとよいでしょう。
商品・サービスの販売促進と販路拡大
B型事業所が製造する焼き菓子や雑貨、農産物などをアピールしたい場合は、ビジュアルが映えるInstagramが向いています。
作品系のテーマであれば、専用アカウントを立ち上げ、ブランドとして発信することで認知拡大に繋げる事例もあります。ECサイトやイベント出店の告知と組み合わせることで、フォロワーから顧客への動線を作ることも可能です。
販路拡大には、自治体や行政機関を対象とした障害者優先調達推進法に基づく調達制度や、地域の共同受注窓口との連携も併用するとさらに効果的です。
職員採用・人材確保
慢性的な人材不足は障害福祉分野共通の課題で、サービス管理責任者(以下、サビ管)や支援員の採用にSNSを活用する事業所も増えています。
職員の働く様子、研修風景、利用者との関わり方をInstagramやFacebookで発信することで、応募者が入職後のイメージを掴みやすくなります。求人広告の補完手段としてSNSを位置づけると、応募の質を高める効果が期待できます。
地域連携・関係機関とのネットワーク構築
相談支援事業所、ハローワーク、地域の企業など関係機関との連携を深めたい場合は、Facebookが選択肢になります。
実名ベースで運用されるため信頼関係が築きやすく、イベント告知や合同企画にも活用しやすい性質があります。地域内のつながりを可視化することで、新規利用者の紹介や受注機会の創出にも繋がっていきます。
主要SNSの特徴と就労継続支援B型事業所での使い方
SNSはプラットフォームごとに利用者層と発信スタイルが大きく異なります。すべてに手を広げるのではなく、事業所の目的とリソースに合うものを選ぶことが大切です。ここでは代表的な4つのSNSについて、B型事業所での使い方の要点を整理します。
Instagram(作品・商品の可視化)
Instagramは写真と動画が中心で、視覚的な訴求力が高いプラットフォームです。
B型事業所では、利用者の作品紹介、商品の販売、活動風景の発信に向いています。ハッシュタグを通じて関心の高い層にリーチでき、ストーリーズ機能で日常的な発信も気軽に行えます。利用者の表情や手元など、人物が特定されにくい構図を選ぶ工夫が運用上の安心材料になります。視覚的に伝えやすいテーマがある事業所には、最初に選ぶプラットフォームとして適しています。
X(旧Twitter)(リアルタイム性と地域内拡散)
X(旧Twitter)は1投稿あたり日本語で実質140字程度の短文を中心とする(英数字なら最大280文字、有料プランでは長文投稿も可能)、即時性の高いSNSです。
イベント告知、商品の入荷情報、お知らせなど、リアルタイム性のある情報発信と相性が良いといえます。拡散機能(リポスト)により、地域の関係者やフォロワーを通じて情報が広がりやすい一方、誤情報や不適切な投稿が広がるリスクも高いため、運用ルールの明確化が欠かせません。
Facebook(関係機関・地域企業との信頼ベース連携)
Facebookは実名登録が基本で、ビジネス利用や関係機関とのネットワークづくりに向いています。
地域の相談支援事業所や行政機関、企業との情報交換、イベント告知、合同企画の共有などに活用されます。若年層の利用は減少傾向にありますが、中高年層・専門職層には依然として影響力があり、信頼ベースの発信媒体として活きます。
TikTok・YouTube(動画による若年層への認知拡大)
TikTokやYouTubeなどの動画プラットフォームは、若年層への認知拡大に効果的です。
短尺動画で作業風景や商品制作の過程を伝えることで、文章や写真では届きにくい層にもアプローチできます。ただし制作には一定の編集スキルと時間が必要なため、運用負担と効果を冷静に見極めて導入することが大切です。
就労継続支援B型事業所がSNS運用で必ず押さえるべきリスクとコンプライアンス
SNS運用で最も慎重に扱うべきは、利用者の肖像権・個人情報の保護です。集客テクニックを学ぶ前に、まずリスク管理の枠組みを整えることが、長期的に安定した運用の土台になります。ここでは、行政書士の視点から、B型事業所が押さえておきたい3つの法的・実務的論点を整理します。
利用者の肖像権と個人情報の保護
肖像権とは、自分の容貌や姿態を無断で撮影されたり、撮影された画像を無断で公表されたりしない権利です。最高裁判決でも、法律上保護されるべき人格的利益として認められています(最高裁平成17年11月10日判決)。
B型事業所の運営者は個人情報取扱事業者にあたり、利用者の氏名・写真・障がい種別など、個人情報保護法上の取扱いに注意が必要です。
過去には、訪問介護事業所の職員が私的なブログに利用者の情報を投稿し、プライバシー侵害および名誉毀損として、職員と事業者に損害賠償責任が認められた事例もあります(東京地裁平成27年9月4日判決)。SNS運用は、こうした法的リスクを正しく理解したうえで始めることが大切です。
同意取得の進め方と判断能力への配慮
SNSに利用者の写真や作品を掲載する場合、事前の書面同意を得るのが原則です。
利用契約時に、SNSへの掲載可否、掲載範囲(顔の有無、ハンドルネーム使用など)、掲載期間、削除請求の方法を整理した同意書を交わすことで、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
障がいの特性によりご本人の判断が難しい場面では、意思決定支援を踏まえつつ、ご本人の意思を最大限尊重したうえで、必要に応じてご家族と協議することも重要です。同意は一度取れば終わりではなく、定期的に確認・更新する運用が望まれます。
職員のプライベートSNS利用と就業規則の整備
SNSに関わるトラブルの多くは、職員の私的なアカウントから業務関連の情報が流出することで起こります。
事業所として公式アカウントの運用ルールを定めるのはもちろん、職員が私的アカウントで業務情報や利用者の様子を発信しないよう、SNSガイドラインを整備することが望まれます。
具体的には、業務に関する投稿の禁止範囲、勤務時間中のSNS利用の取扱い、違反時の対応などを明文化し、入職時の研修で周知することが効果的です。なお就業規則の作成・変更は社会保険労務士の業務領域に該当する部分があるため、就業規則本体に関わる整備にあたっては社労士へのご相談もご検討ください。
SNS運用を継続・成功させるための実務ポイント
SNSは始めることよりも、続けることのほうがはるかに難しい媒体です。担当者の異動や日々の業務に追われて投稿が止まってしまう例は珍しくありません。ここでは、SNS運用を継続させるために押さえておきたい3つの実務ポイントをご説明します。
運用目的の言語化と評価指標の設定
SNS運用を始める前に、「何のために運用するのか」を文書化し、関係者で共有することが大切です。
利用者獲得が目的なら問い合わせ件数や見学申込数、商品販売が目的なら売上やフォロワー数のような、目的に紐づく評価指標を設定します。評価指標は事業所のステージごとに見直し、無理な目標設定で疲弊しないよう、現実的な水準から始めるとよいでしょう。
投稿頻度と運用体制の確保(担当者の分業)
継続のためには「特定の職員に依存しない体制」が欠かせません。
撮影担当・編集担当・投稿担当・確認担当を分け、複数人で回せる仕組みを最初から作っておくと、担当者の退職や異動でも運用が止まりにくくなります。週1回でも安定して継続できるペースを基準に、無理のない頻度から始めることが大切です。
投稿前のチェックフローを文書化し、肖像権や個人情報の確認漏れを防ぐ仕組みも併せて整備しましょう。
利用者の活動の一環としてSNS運用を位置づける視点
SNS運用を職員だけのタスクとして抱え込まず、利用者の作業工程の一部として組み込む視点も有効です。
撮影、画像編集、文章作成、投稿管理など、SNS運用には多様な工程があり、それぞれが利用者の得意分野とマッチする可能性があります。取り組み方によっては、SNS関連業務を作業として位置づけ、工賃の対象作業に含めることも考えられます。ただし作業内容や指導体制、安全配慮の整備は事業所の運営方針として整理することが前提です。
事業所のブランディングの観点では、おしゃれなB型事業所の事例も参考になります。
工賃向上に繋げたB型事業所のSNS活用事例
SNS活用が具体的にどのように工賃向上に繋がるのか、実際の取り組み事例を見ると理解が深まります。ここではB型事業所の好事例として知られる、SNSを軸にブランディングを進めた事業所の取り組みをご紹介します。
B型事業所「ワークプレイスアミカ」(運営:特定非営利活動法人ジャパンマック)では、利用者の自由な表現活動として制作されたちぎり絵をきっかけに、Instagramアカウント「amicart.tokyo」を開設し、外部への認知拡大に取り組んでいます。
アミカは当初、ちぎり絵作品の販売を開始したものの効果的なブランディング方法に悩み、販路が限定的で価格を低く設定せざるを得ない状況だったとされます。そこで作品とともに、利用者の方が込めた想いや日々の変化を発信することで、「アミカ=ちぎり絵」というブランドイメージを地道に築き上げていきました。カレンダーや関連商品に統一のロゴシールを添付するなど、デザイン面の一貫性も意識されています(出典:東京都福祉局『就労継続支援B型事業所工賃向上への取り組み好事例集』、令和6年度からの「就労継続支援B型事業所マネジメント事業」の成果として作成)。
重要なのは、SNS活用が単なる集客手段ではなく、利用者一人ひとりの表現や生き方を社会と繋ぐ媒体として位置づけられている点です。このような取り組みは、工賃向上と利用者の自己肯定感向上の両面で意義があると言えるでしょう。
よくある質問
最後に、B型事業所のSNS運用を始める際によくいただく質問を3つご紹介します。細かな疑問点は事業所の状況により判断が分かれるため、迷う場面では個別に専門家へ相談することもご検討ください。
Q1. 写真投稿前に同意書以外に確認すべきことは?
同意書の取得は前提として、毎回の投稿前に以下のような項目をチェックリストで確認することが望まれます。
- 同意の範囲を超えていないか(顔の有無、掲載先メディア、掲載期間など)
- 映り込み(背景にいる他の利用者・職員、来訪者)に問題がないか
- 個人を特定できる情報(名札、行事写真の氏名表示、車のナンバープレート、表札等)が写っていないか
- 撮影場所が特定される情報(住所、地図、特徴的な看板等)が含まれていないか
- 写真のメタデータ(位置情報、撮影日時等)が含まれていないか
Q2. 利用者ご本人が事業所のことをSNSに書いてしまった場合、事業所はどう対応すべき?
個人の表現の自由は尊重しつつ、誤情報や他の利用者・職員のプライバシーに関わる内容については、丁寧な対話を通じて状況を整理することが大切です。契約時に利用者間のSNSルールも共有しておくことで、事前に防げる場面が増えます。
Q3. SNS活用は加算や報酬で直接評価されるのか?
現時点で、SNS活用そのものを直接評価する加算は障害福祉サービス報酬には設けられていません。ただし、SNSを通じて工賃向上に繋がれば、平均工賃月額に応じた基本報酬区分の評価に間接的に寄与します。
なお令和8年度の障害福祉サービス等報酬改定(臨時応急的見直し)では、就労継続支援B型サービス費(Ⅰ)〜(Ⅲ)の基本報酬区分について、平均工賃月額の区分(一)〜(六)の下限が原則3,000円引き上げられました。同時に、令和6年度改定前後で区分が上がっていない事業所は対象外とされ、区分が下がる事業所への中間的区分の新設、区分七・八間の基準据え置きなど、事業所経営への急激な影響を防ぐ配慮措置も設けられています(出典:厚生労働省・こども家庭庁『令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について』令和8年2月18日)。工賃向上の経営的重要性は引き続き高まっています。
まとめ
B型事業所のSNS活用は、4つの目的(利用者獲得・商品販売・採用・地域連携)を整理し、目的に合うプラットフォームを選び、運用体制を整え、リスク管理を徹底することが基本となります。
集客テクニックよりも先に、肖像権や個人情報の保護、同意取得のプロセス、職員のSNS利用ガイドラインを整備することが、長期的な安定運用の土台です。そしてSNSは単なる集客手段ではなく、利用者の方が働く意義を社会と繋ぐ媒体として活かす視点を持ちたいところです。
無理のないペースで始め、続けられる体制を作ることが、結果的に事業所の魅力を伝える一番の近道になります。制度や運用について個別の判断が必要な場面では、最新情報を厚生労働省サイト等でご確認いただくか、専門家へのご相談もご検討ください。
※本記事は行政書士 横関のプロフィールが運営する障がいビズが発信しています。
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