国や地方公共団体が、障害者就労施設等から優先的に物品や役務を調達することを定めた法律をご存じでしょうか。

「障害者優先調達推進法」は、障がいのある方の経済的自立と就労施設の経営基盤強化を目的に、平成25年4月から施行されている法律です。

国・地方公共団体等を合わせた調達額は、令和5年度に約235億円に達し、10年連続で過去最高を更新しています(厚生労働省: 調達方針・調達実績)。

本記事では、障害者優先調達推進法の概要、対象となる施設・事業者、調達実績の現状、発注の入口までを、発注を検討する企業・自治体担当者と、受注機会を広げたい障害福祉事業所運営者の双方に向けて、分かりやすくご説明したいと思います。

障害者優先調達推進法とは?

障害者優先調達推進法は、国や地方公共団体等が障害者就労施設等からの物品・役務(サービス)を優先的に調達することを定めた法律です。正式名称や施行の背景を整理しておくと、本法律の位置づけが把握しやすくなります。

正式名称と施行日

障害者優先調達推進法は、正式名称を「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」といいます。

平成24年6月27日に公布され、平成25年4月1日から施行されています。

略称として「優先調達法」と呼ばれることもありますが、本記事では正式略称である「障害者優先調達推進法」で統一して進めます。

法律が制定された背景

障がいのある方が自立した生活を送るためには、就労による経済的基盤の確立が重要です。一方で、障害者就労施設等は規模や人員の制約から、国や地方公共団体との契約締結が難しい状況にありました。

この課題を解決するため、国・地方公共団体等が率先して障害者就労施設等から物品やサービスを購入することで、施設の受注機会を確保し、就労する障がいのある方の自立を促進する仕組みとして本法律が整備されました。

それまで民間企業や一部自治体が個別に取り組んでいた優先発注を、国・独立行政法人等・地方公共団体等の責務として明文化した点が、本法律の大きな特徴です。

国・地方公共団体等に課された「努力義務」の中身

本法律で優先調達の努力義務を負うのは、国・独立行政法人等・地方公共団体・地方独立行政法人です。民間企業は本法律の直接の対象ではありませんが、混同されやすい障害者雇用促進法との関係も併せて整理しておきます。

4つの取組(基本方針・調達方針・実施・実績公表)

障害者優先調達推進法では、国・地方公共団体等が以下の4つの取組を行うことが定められています。法第5条から第9条の規定を、厚生労働省資料に沿って整理すると、次のような流れになります。

  1. 基本方針の策定:国は、調達を総合的・計画的に推進するため、基本方針を定める(法第5条)。
  2. 調達方針の策定:各省各庁の長、独立行政法人等の長、都道府県、市町村、地方独立行政法人は、毎年度、基本方針に即した調達方針を作成する(法第6条・第9条)。
  3. 調達方針に即した調達の実施:策定した方針に沿って、障害者就労施設等からの物品・役務を調達する。
  4. 調達実績の公表:毎会計年度終了後、調達実績の概要を取りまとめて公表する(国の機関は法第7条、地方公共団体は法第9条第5項)。国の機関は併せて厚生労働大臣への通知が定められています。

調達方針と調達実績は、厚生労働省のウェブサイトおよび各機関のサイトで公表されています。

障害者雇用促進法・法定雇用率との違い

障害者優先調達推進法は、しばしば障害者雇用促進法と混同されますが、両者は別の制度です。雇用促進法は事業主の障がい者「雇用」を促進するもので、民間企業を含むすべての事業主が対象となります。

一方、優先調達推進法は障害者就労施設等からの「調達」を進めるもので、努力義務の対象は国・地方公共団体等に限られます。両者は連動して、障がいのある方の働く場を支える両輪と言える関係です。

なお、障害福祉サービスの全体像については、障害者総合支援法の解説記事もあわせてご参照ください。

優先調達の対象となる施設・事業者は?

障害者優先調達推進法で優先発注の対象とされる施設・事業者は、大きく3つの系統に分かれます。自施設・自事業所が対象となるかを確認したい方は、以下の整理をご参照ください。

障害者総合支援法に基づく事業所

最も対象範囲が広いのが、障害者総合支援法に基づく就労系・日中活動系の事業所です。具体的には次のような事業所が含まれます。

各事業所の制度詳細については、リンク先の関連記事もご参照ください。

障害者雇用促進法に関連する事業所

障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)に関連する次の事業所も対象に含まれます。

  • 特例子会社:障害者雇用促進法に基づき認定を受けた子会社
  • 重度障害者多数雇用事業所:政令で定める要件(障がい者雇用5人以上、労働者に占める障がい者の割合20%以上、雇用障がい者に占める重度身体・知的・精神障がいのある方の割合30%以上)をすべて満たす事業所

在宅就業障害者・在宅就業支援団体・小規模作業所

見落とされがちですが、次の対象も法律上認められています。

  • 在宅就業障害者:自宅等で物品の製造や役務の提供を自ら行う障がいのある方
  • 在宅就業支援団体:在宅就業障害者に対する援助業務等を行い、厚生労働大臣の登録を受けた団体
  • 小規模作業所:障害者基本法により費用の助成を受けている作業所

このように、優先調達の対象は、就労系福祉サービス事業所だけでなく、企業形態の事業所や在宅就業の仕組みまで多岐にわたります。

調達実績の推移と現状

障害者優先調達推進法は、施行以来、調達実績を着実に伸ばしています。最新の公表データから、本法律が形式的な努力義務にとどまらず実体のある仕組みとして機能していることを確認します。

国・地方公共団体等を合わせた調達額の推移

厚生労働省が公表している調達実績の合計(国、独立行政法人等、都道府県、市町村、地方独立行政法人の合計)は、近年次のように推移しています。

  • 令和元年度:193.34億円
  • 令和5年度:約235.18億円(前年度比6.1%増、13.53億円増)

令和5年度の調達額は法施行以来10年連続で過去最高を更新しており、各機関の取組が定着しつつあることが分かります(厚生労働省: 調達方針・調達実績)。

なお、最新年度の数値は厚生労働省のウェブサイトに順次掲載されるため、執筆検討時は同サイトで最新版をご確認ください。

市町村が大きな割合を占める構造

調達実績を内訳でみると、市町村による調達額が全体の大きな割合(これまで約7割、令和元年度厚生労働省公表ベース)を占めてきました。実際の発注は地方自治体が主役で、特に都道府県・市町村における実績の積み上げが全体の伸びを支えてきました。

国の各省庁や独立行政法人等の調達額は全体の約2〜3割にとどまる一方、地方単位での共同受注窓口の整備や地域内事業所への発注拡大が、近年の伸びの主な要因とされています。

発注しやすい物品・役務と発注の入口

法律の趣旨を理解しても、「実際に何を発注できるのか」「どこに頼めばよいのか」が分からなければ調達は進みません。発注実績のある物品・役務と、発注の入口となる窓口を整理します。

発注実績のある物品・役務の例

障害者就労施設等は、実に幅広い物品・役務を提供しています。厚生労働省「障害者優先調達推進法の推進(取組事例)」によれば、発注実績の多いカテゴリーには次のようなものがあります。

  • 印刷・封入封緘:名刺、パンフレット、チラシ、ダイレクトメール作成
  • 清掃・施設管理:オフィス清掃、公園清掃、除草作業
  • データ入力・事務作業:アンケート集計、データ入力、書類整理
  • 農産物・加工食品:野菜、米、菓子、パン、ジャム
  • クリーニング・リネン:タオル、ユニフォーム洗濯
  • 製造・組立:ノベルティ製作、製品組立、袋詰め
  • 役務(サービス):カフェ運営、会議室飲食提供、配送業務

当サイト運営者の横関も、自身の会社で発生した不用品の引取りや小ロット作業をB型事業所に発注した経験があり、こうした少量の発注でも事業所の工賃向上に資する実感を持っています。発注を検討する際は、各自治体や共同受注窓口が公表している「障害者就労施設等が提供可能な物品・サービス一覧」を参照すると、地域内の事業所と業務内容を把握しやすくなります。

[画像挿入推奨: B型事業所の作業風景や提供物品のイメージ]

共同受注窓口・在宅就業支援団体の活用

単独の事業所では大口注文や複数工程にまたがる業務に対応しにくい場合があります。そのような場合に活用できるのが、共同受注窓口や在宅就業支援団体です。

共同受注窓口は、発注者からの依頼内容を聞き取り、対応可能な事業所を探し、必要に応じて作業を複数施設で分担する調整を行います。窓口を経由することで、発注者側は事業所選びの手間を省け、受注側は単独では難しい案件にも参加できるメリットがあります。

共同受注窓口の役割やメリットの詳細は、共同受注窓口の解説記事をご参照ください。

障害者優先調達推進法の課題と今後の展望

障害者優先調達推進法は着実に実績を伸ばしてきましたが、いくつかの課題も指摘されています。今後の展望と併せて整理しておきます。

民間企業への波及・工賃向上との連動・認知度

第一の課題は、民間企業への波及効果が限定的であることです。本法律の努力義務は国・地方公共団体等に限られるため、民間企業からの発注は各企業の自主的な取組に委ねられています。法定雇用率と連動した発注インセンティブの設計など、間接的な仕組みづくりが今後の論点と考えられます。

第二に、工賃向上との連動です。就労継続支援B型の全国平均工賃月額は、令和6年度実績で24,141円と上昇傾向にありますが、調達金額の伸びが直ちに利用者の工賃に反映されるとは限りません。事業所側の生産性向上や付加価値向上の取組とセットで進めることが求められます。詳細は就労継続支援B型事業所の現状と課題もあわせてご参照ください。

第三に、制度の認知度の課題です。発注側・受注側ともに、本法律の存在や利用可能な仕組みを十分把握できていない場面があります。自治体が公表する調達方針や、共同受注窓口の活用がさらに進めば、調達額の伸び代はまだ残されていると考えられます。

よくある質問

発注検討や事業所運営の現場でよく挙がる3つの疑問にお答えします。

Q1: 民間企業も発注しなければならないのですか?

障害者優先調達推進法における努力義務の対象は、国・独立行政法人等・地方公共団体・地方独立行政法人です。民間企業は本法律の直接の対象ではありません。

ただし、自治体によっては独自の認定制度を設けて、民間企業の発注を後押ししている例があります。例えば兵庫県は県内の障害者就労施設等から年100万円超の物品・役務を調達した企業を「ひょうご障害者ハート購入企業」として認定し、県発注の建設工事契約での加点等の優遇措置を講じています。間接的に民間企業の発注を促す仕組みが各地で広がっています。

Q2: 自分の事業所も優先調達の対象になりますか?

本記事「優先調達の対象となる施設・事業者は?」で示した3つの系統(障害者総合支援法に基づく事業所、障害者雇用促進法に関連する事業所、在宅就業障害者・在宅就業支援団体・小規模作業所)のいずれかに該当する事業所は、優先調達の対象となります。

就労継続支援A型・B型、就労移行支援、生活介護等の障害者総合支援法に基づく事業所であれば対象に含まれます。詳細は所在地の自治体障害福祉担当課や共同受注窓口にご確認ください。

Q3: 発注の流れはどう始めればよいですか?

発注を検討する場合は、まず所在自治体の調達方針を確認し、地域の共同受注窓口や、自治体が公表する「障害者就労施設等が提供可能な物品・サービス一覧」を参照するのが入口になります。

その後、共同受注窓口を経由するか、事業所に直接連絡して見積もりを取り、納期や品質を確認したうえで契約を結ぶ流れになります。少量のノベルティや事務用印刷物などから始めると、発注の流れを把握しやすいと言われています。

まとめ

障害者優先調達推進法の概要と実務上のポイントを振り返ります。

本法律は、国・地方公共団体等が障害者就労施設等から優先的に物品・役務を調達することを定めた仕組みです。令和5年度の調達額は約235億円と10年連続で過去最高を更新し、市町村が大きな割合を担う構造で運用されています。

発注対象となる施設・事業者は、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、生活介護等の福祉サービス事業所から、特例子会社・在宅就業支援団体まで多岐にわたります。発注の入口としては、共同受注窓口の活用が現実的です。

最新の調達方針・調達実績は、厚生労働省: 調達方針・調達実績で随時更新されています。個別の発注検討や事業所運営上のご質問は、所在自治体の障害福祉担当窓口にご確認ください。


※ 本記事は行政書士 横関のプロフィールが運営する障がいビズが発信しています。