近年、障害者総合支援法の改正や社会情勢の変化に伴い、就労継続支援B型事業所を取り巻く環境は大きく変化しています。
本記事では、就労継続支援B型事業所数の推移、利用者数の変化、サービス内容の変遷、そして事業所が抱える課題と今後の展望について分かりやすくご説明したいと思います。
目次
就労継続支援B型事業所数の推移
厚生労働省のデータによると、就労継続支援B型事業所数は2018年3月には9,959箇所だった事業所数は、2019年3月10,724箇所、2020年3月11,601箇所、2021年3月には12,423箇所、2022年3月には13,117箇所と大幅に増加しています。
営利法人が設置する事業所が増加している点も大きな特徴です。
測定時点の違いなどで若干数字の違いがありますが、「厚生労働省 社会福祉施設等調査」の結果では、就労継続支援B型事業所数は以下のように推移しています。(各年10月1日現在)
調査年 | 事業所数(箇所) |
---|---|
令和元年(2019年) | 12,497 |
令和2年(2020年) | 13,355 |
令和3年(2021年) | 14,407 |
令和4年(2022年) | 15,588 |
令和5年(2023年) | 16,713 |
就労継続支援B型事業所数の増加要因
就労継続支援B型事業所数の増加には、以下の要因が考えられます。
- 障害者総合支援法の改正: 2013年の障害者総合支援法の改正により、就労継続支援B型事業所の対象者が拡大され、より多くの障害者が利用できるようになりました。また、令和6年度(2024年度)施行予定の改正では、就労支援の更なる充実が図られています。
- 報酬改定: 報酬改定により、事業所の経営状況が改善され、新規参入が促進された可能性があります。
就労継続支援B型事業所 利用者数増加の要因
就労継続支援B型事業所の利用者数が増加している背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 障害者雇用の促進: 障害者雇用促進法の改正などにより、企業の障害者雇用に対する意識が高まり、就労継続支援B型事業所を利用する障害者も増加している可能性があります。
- 社会参加への意識の高まり: 障害者が社会参加することへの意識が高まり、就労継続支援B型事業所が社会参加の場として認識されるようになったことも、利用者増加の一因と考えられます。
就労継続支援B型事業所の利用者数の推移
就労継続支援B型事業所の利用者数も増加傾向にあります。
「厚生労働省 社会福祉施設等調査」の結果では、就労継続支援B型事業所数は以下のように推移しています。(各年10月1日現在)
調査年 | 利用者数(人) |
---|---|
令和元年(2019年) | 332,487 |
令和2年(2020年) | 359,732 |
令和3年(2021年) | 401,977 |
令和4年(2022年) | 406,577 |
令和5年(2023年) | 461,003 |
就労継続支援B型事業所のサービス内容の推移
就労継続支援B型事業所は、通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難な障害者に対して、就労の機会を提供することを目的とした福祉サービスです。
具体的には、以下のサービスを提供しています。
- 生産活動: 農業、軽作業、PC作業など、利用者の能力や適性に応じた生産活動の機会を提供します。例えば、農作業では、野菜の栽培や収穫、加工などを行い、利用者は働く喜びを感じながら、社会に貢献することができます。
- 職場体験等の活動の機会の提供: 企業や地域活動への参加など、実際の職場で働くことを体験する機会を提供することで、就労に必要な知識や能力を向上させます。例えば、地域のカフェで接客の仕事を体験することで、利用者はコミュニケーション能力や接客マナーを学ぶことができます。
- 就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練: ビジネスマナー、コミュニケーション能力向上のための研修、パソコンスキルに関する訓練など、就労に必要な知識や能力を向上させるための訓練を提供します。例えば、ビジネスマナー研修では、挨拶の仕方や身だしなみ、電話対応など、基本的なビジネスマナーを学ぶことができます。
- 生活活動その他の必要な訓練: 日常生活に必要なスキルを習得するための訓練や、余暇活動の支援などを通して、利用者の社会生活のスキルを高めます。
- 就労に伴う相談その他の必要な支援: 就労に関する相談や、職場での悩み、人間関係のトラブルなど、就労に伴う様々な相談に対応します。
就労継続支援B型事業所の課題
就労継続支援B型事業所は、多くの障害者の就労と社会参加を支える重要な役割を果たしていますが、同時にいくつかの課題も抱えています。
- 工賃の低さ:「厚生労働省: 障害者の就労支援対策の状況」によると、令和4年(2022年)の全国のB型事業所における平均月額工賃は1万7,031円であり、10年前の平成24年(2012年)の14,190円と比べてわずか3,000円ほどしか増加していません。工賃の低さは、利用者の生活の質の向上を阻害する要因となっています。
- 回答者の工賃に関して、10,000~15,000 円未満(20.8%)の金額帯の割合が最も多く、希望する工賃額として最も多い金額帯は、30,000~45,000 円未満でした(22.5%)。すなわち、現実の工賃額と希望の工賃額の差は約 20,000 円ほどであり、利用者の満足度やモチベーションの維持に影響を与えている可能性があります。
- 職員不足: 多くの事業所で職員不足が深刻化しており、サービスの質の低下や職員の負担増加に繋がっています。職員の配置や負担も含めた、全体的な事業所運営に関する相談や助言も必要といえるでしょう。
- 利用者獲得競争の激化: 事業所数の増加に伴い、利用者獲得競争が激化しており、経営難に陥る事業所も出てきています。
- 質の低い事業所の増加: 質の低い事業所の増加は、就労継続支援B型事業所全体のイメージダウンに繋がりかねません。
就労継続支援B型事業所は、就労継続支援A型事業所と比較して、雇用契約を結ばず、利用契約を結ぶ点が異なります。
また、工賃は作業量や能力に応じて支払われます。
一方で、地域活動支援センターは、就労を目的としない障害福祉サービスであり、創作的活動や生産活動の機会の提供、社会との交流促進などを目的としています。
就労継続支援B型事業所は、これらのサービスとは異なり、就労を目的としたサービスを提供している点が特徴です。
就労継続支援B型事業所の展望
就労継続支援B型事業所の課題を克服し、より質の高いサービスを提供していくためには、以下の取り組みが重要となります。
- 工賃向上: 経営改善、生産性の向上、工賃向上計画の策定など、工賃向上に向けた多角的な取り組みが必要です。例えば、専門家による技術指導や経営指導のアドバイスを受ける、事業所職員の人材育成のための研修を実施する、インターネットを活用した情報提供を行うなどが考えられます。
- 職員の処遇改善: 賃金や労働時間の改善など、職員の処遇改善を進めることで、人材の確保・定着を図る必要があります。例えば、福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金や福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算などの活用が考えられます。13
- サービスの質の向上: 利用者のニーズを的確に把握し、個別支援計画に基づいた質の高いサービスを提供することが重要です。利用者のニーズに応じたサービス改善には、定期的なアンケートやフィードバックを行い、それに基づいた個別支援計画の見直しが重要です。14 また、職員間の情報共有を円滑にすることも、利用者のニーズに応えるための重要な要素です。
- 地域との連携強化: 地域の企業や関係機関との連携を強化することで、就労機会の拡大や地域社会への統合を促進する必要があります。就労能力や適性の評価の仕組みの創設や一人一人の就労に向けた支援計画(就労支援プラン)の共有化なども検討されています。
- 優先調達法の活用: 2013年4月から施行されている優先調達法を活用することで、B型事業所の製品やサービスの販路拡大を図り、工賃向上に繋げることが期待されます。
まとめ
就労継続支援B型事業所は、障害者の就労支援において重要な役割を担っています。
事業所数の増加は、より多くの障害者が就労の機会を得られるようになったことを示していますが、同時に工賃の低さや職員不足など多くの課題も抱えています。
今後、これらの課題を克服し、利用者一人ひとりのニーズに応じた質の高いサービスを提供していくためには、工賃向上に向けた多角的な取り組みや職員の処遇改善、サービスの質の向上、地域との連携強化などが重要となります。
また、優先調達法の活用やICT技術の導入など、新たな取り組みも必要となるのだと思います。