近年、障害者雇用の促進は重要な社会課題として注目されています。
厚生労働省は、障害者就労支援の質向上を目的として、新たな国家資格「障害者就労支援士」の創設を検討しています。
この記事では、この新たな国家資格について、その概要、背景、そして社会における役割などを分かりやすくご説明したいと思います。
障害者就労支援士の概要
障害者就労支援士は、障害者の就労を支援するための専門的な知識と技能を有することを認定する国家資格です。
障害のある人に対しては、その人の生活全般を見渡し、必要な支援や社会資源を組み合わせる「ソーシャルワーカー」や「コーディネーター」の役割が求められます。
また、職場のルールやビジネスマナー、就労準備性や履歴書の書き方などを教える「教育者」でもあります。
障害者の個別性に合わせた就労支援計画の作成、職場への定着支援、関係機関との連携など、幅広い役割を担うことが期待されています。
就労継続支援サービスにおいては、支援員が利用者の生活環境や仕事に対する期待を理解し、具体的なサポートプランを提供することが重要です。
定期的なフィードバックを行い、利用者の意見を反映させることで、より良い支援環境を構築することが期待されます。
資格の目的と役割
障害者就労支援士の目的は、障害者就労支援人材の認知度を高め、人材確保や処遇改善につなげることです。
各種研修と組み合わせて円滑な人材育成を促進し、障害者就労支援体制を強化することで、障害者の就労機会の拡大と就労の質の向上を目指します。
資格取得に必要な要件
障害者就労支援士の受験資格を得るには、以下の要件を満たすことが予定されています。
実務経験 | 障害者就労支援の実務経験が3年以上あること |
研修修了 | 職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修を修了していること |
就労状況 | 障害者就労支援員として従事していること |
基礎研修 | 就労系障害福祉事業所に初めて携わる人は、14科目900分の基礎知識やスキルを学ぶための研修(オンラインと集合研修)の受講が必要となる可能性があります。 |
試験は多肢選択式の筆記試験で行われ、以下の科目が含まれます。
- 就労支援の理念と障害者雇用の現状
- 就労支援のプロセス
- 求職活動から職場定着までの支援
- 就労支援機関とネットワーク
資格取得後のキャリアパス
障害者就労支援士の資格を取得することで、障害者就労支援の分野でより専門性の高いキャリアを築くことが期待されます。
就労移行支援事業所、就労継続支援事業所A型・B型、就労定着支援事業所、障害者就業・生活支援センターなど、様々な施設で活躍の場があり、より質の高い就労支援サービスを提供する役割を担うことができます。
障害者就労支援士創設の背景
障害者雇用の現状と課題
障害者雇用を取り巻く現状として、法定雇用率の達成に向けた企業の取り組みが進んでいますが、障害者の離職率が高いこと、個々のニーズに合わせたきめ細やかな支援体制が不足していることなどが課題として挙げられます。
合理的配慮とは、障害者が他の労働者と平等に労働条件を享受できるようにするための必要な措置を指します。
これは、障害者雇用促進法においても重要な概念であり、企業には、障害者の個別の状況に応じて、職場の環境や設備、業務内容などを調整する義務が課せられています。
近年注目されているのは、発達障害者の就労支援です。
発達障害者は、コミュニケーションや対人関係、感覚過敏などに困難を抱える場合があり、就労においても特別な配慮や支援が必要となることがあります。
また、障害者権利条約では、「障害は個人ではなく社会にある」という社会モデルの考え方が示されており、障害者が社会参加するためには、社会環境側の整備が重要であることが強調されています。
さらに、障害者を雇用している企業への調査によると、障害者の定着率には、障害の種類や雇用形態によって差があることが明らかになっています。
例えば、精神障害者の定着率が低い傾向にある一方、就労継続支援A型事業からの就職者の定着率は比較的高いという結果が出ています。 (独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター:障害者の就業状況等に関する調査研究)
障害者就労支援の質向上に向けた政府の取り組み
政府は、障害者雇用促進法の改正や障害者総合支援法に基づくサービスの提供など、障害者雇用の促進と就労支援の質向上に向けた様々な取り組みを進めています。
障害者就労支援士の創設も、こうした取り組みの一環として位置付けられています。
具体的には、雇用と福祉の両分野において、基礎的な知識やスキルを習得するための研修制度の確立、専門人材の高度化に向けた階層的な研修制度の創設、専門人材の社会的認知度の向上、企業等における就労と就労継続支援事業の利用の両立支援などが挙げられます。
また、障害者就業・生活支援センターなどの地域の関係機関との連携強化も重要な取り組みです。
障害者就労支援士への期待
障害者就労支援士には、障害者の就労支援の質を向上させ、障害者が能力を発揮し、社会参加できるよう支援することが期待されています。
具体的には、障害者の希望や能力、適性を正確に把握し、個別支援計画に基づいたシームレスな就労支援を提供すること、職場への定着支援、そして、個々の障害特性に応じたきめ細かな支援を提供することなどが求められます。
就職後も継続的なサポートを提供し、必要に応じて関係機関と連携することで、障害者が安心して働き続けられるよう支援することが重要です。
障害者就労支援士に関する様々な意見
障害者団体からの意見
障害者団体からは、障害者就労支援士の創設により、より専門性の高い支援を受けられるようになることへの期待が寄せられています。
支援者からの意見
支援者からは、資格取得のための負担増加や、資格制度によって支援の画一化が進むことへの懸念の声も聞かれます。
事業者からの意見
事業者からは、障害者雇用を促進するための専門的な人材の確保に繋がることが期待されています。
資格制度のメリット・デメリット
障害者就労支援士制度のメリットとしては、障害者就労支援人材の質の担保、処遇改善による人材確保、専門性の向上が挙げられます。
これにより、障害者への就労支援の質が向上し、より多くの障害者が就労の機会を得ることが期待されます。
一方で、デメリットとしては、資格取得のための費用や時間の負担、資格取得が目的化してしまう可能性などが考えられます。
また、資格制度によって、支援の画一化や柔軟性の低下が起こる可能性も懸念されます。
今後の展望
厚生労働省は、障害者就労支援士の資格創設に向けた検討を進めており、2025年度以降にモデル問題の作成や検証を行い、将来的に国家資格化を目指しています。
今後は、試験科目や範囲などの詳細を詰め、障害者団体や支援者などの意見を反映しながら、制度設計を進めていく必要があります。
まとめ
障害者就労支援士は、障害者雇用促進と就労支援の質向上に向けた重要な取り組みです。
障害者の多様なニーズに対応できる質の高い支援体制を構築するためには、障害者就労支援士の役割と責任、そして今後の展望について、継続的な議論と検討が必要となります。
障害者就労支援士の創設は、障害者就労支援の専門職化を促進し、その社会的・経済的地位を向上させる可能性を秘めています。
しかし、資格制度の導入に伴う課題やリスクも存在するため、制度設計においては、多様な関係者の意見を丁寧に聞き取り、慎重に進めていく必要があります。