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農福連携が注目されている理由

最近、「農福連携」という言葉がメディアや行政で頻繁に取り上げられています。
農福連携とは、その名の通り農業と福祉の連携による取り組みのことです。
具体的には、障害のある方々などが農業の現場で活躍し、自信や生きがいを持って社会参加できるようにする試みを指します。
農福連携に取り組むことで、障害者の就労機会や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、人手不足や高齢化が進む農業分野で新たな働き手を確保できると期待されています。
では、なぜこの農福連携がこれほど注目されるようになったのでしょうか。
その背景には、農業と福祉それぞれの分野が抱える深刻な課題と、双方の課題を同時に解決し得る農福連携のwin-winな効果があります。
以下に、農福連携が注目されている理由を詳しくご説明したいと思います。
【農業分野の背景】労働力不足と高齢化による危機

まず農業サイドの現状を見てみましょう。
日本の農業現場では担い手不足が深刻です。
農業に従事する人口は年々減少しており、農林水産省の資料では、農業就業人口は1995年の414万人から2017年には182万人へと、約20年あまりで半分以下に減少しています。(参考:農林水産省ホームページ『農業の「働き方改革」検討会』)
農業の中心的な担い手となる基幹的農業従事者は、この20年ほどで約4割も減少したという統計もあります。
さらに農業従事者の高齢化も進んでおり、平均年齢は2020年の62.2歳から2023年には68.7歳まで上昇しています。(参考:農林水産省ホームページ『力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保』)
こうした人口減と高齢化により後継者不足が深刻化し、離農による農業者減少に拍車がかかっています。
人手不足の影響は農地にも及んでいます。
担い手不足の影響で、耕作されない農地が課題になっています。
農林水産省の調査では、再生利用が可能な荒廃農地面積は9.4万ha(令和5年度)とされています。(参考:農林水産省資料『荒廃農地の現状と対策』)
再生利用が可能な荒廃農地は全国で約9万ヘクタールにも上るとされ、農村地域では使われなくなった田畑が広がる状況です。
農地の荒廃は食料生産力の低下や景観の悪化など様々な問題につながるため、農業分野ではいかに新たな働き手を確保し、農業と農地を維持するかが大きな課題となっています。
【福祉分野の背景】障害者の就労機会拡大と社会参加

一方、福祉(障害者支援)分野にも解決すべき課題があります。それは障害のある方々の就労機会不足です。
厚労省公表(令和4年生活のしづらさなどに関する調査の反映)では、日本の障害者総数(推計値)は1164.6万人とされています。(参考:厚生労働省ホームページ『令和4年生活のしづらさなどに関する調査』)
厚生労働省資料では、障害者約1160万人のうち雇用施策の対象となるのは約480万人、うち雇用(就労)しているのは約114万人とされています。
こうしたデータから、就労に結び付けるための支援や受け皿づくりが課題であることがうかがえます。
つまり、働きたくても働けていない障害者が非常に多いのが現状です。
また、就職できたとしても多くは福祉作業所などでの就労となり、その賃金(水準)は月数万円程度と一般就労に比べて低い水準にあります。(参考:農林水産省資料『農福連携をめぐる情勢』)
例えば厚生労働省の公表では、令和5年度の全国平均として、就労継続支援B型の平均工賃月額は23,053円、A型の平均賃金月額は86,752円とされています。(参考:厚生労働省資料『令和5年度工賃(賃金)の実績について』)
収入が限られることで経済的自立が難しく、生活の選択肢も狭まってしまう問題があります。
障害のある方々にとって、働くことは収入を得るだけでなく社会参加や生きがいにも直結します。
仕事を通じて地域の人と交流したり、自分が誰かの役に立っていると実感したりすることは、障害のある方の自己肯定感や生活の質の向上につながります。
そのため、障害者支援の現場では「いかにして障害者に合った就労の場を増やすか」「工賃(賃金)水準を引き上げて生活を安定させるか」が大きなテーマになっています。
以上のように、農業分野と福祉分野はそれぞれ人手不足と就労機会不足という深刻な課題を抱えています。
次の表に両分野の課題をまとめました。
農福連携は、これら両者の課題を一体的に解決しようとする取り組みである点に大きな意義があります。

| 農業分野の課題 | 福祉分野の課題 |
|---|---|
| 農業人口の減少: 農業就業人口は1995年に約414万人でしたが、2017年には約182万人まで減少しました。農業の担い手不足が深刻です。 | 障害者の雇用機会不足: 障害者約1,160万人のうち、実際に雇用され就労しているのは約114万人に過ぎません。働きたい障害者の受け皿が十分ではありません。 |
| 高齢化と後継者不足: 農業従事者の平均年齢は20年間で約7歳上昇し、高齢化による離農や後継者不在が課題となっています。 | 障害者の収入水準: 福祉施設等で働く障害者の平均工賃は月額数万円程度と低く、経済的自立が難しい状況です。 |
| 耕作放棄地の増加: 担い手不足により耕作されない農地が全国で約9万haに上ります。農地の維持・有効活用が求められています。 | 社会参加の機会: 働く場が限られると障害者の社会参画や生きがいづくりも進みません。農業は地域住民との交流を通じた社会参加の場にもなり得ます。 |
国による推進と社会的な広がり

上述のような背景から、農業と福祉の双方の課題を同時に解決できる可能性を持つ農福連携に注目が集まり、国も本格的な推進に乗り出しました。
政府は2016年に策定した「ニッポン一億総活躍プラン」の中で農福連携の推進を打ち出し、それを契機に2016年以降、農林水産省と厚生労働省をはじめ民間企業やNPO、農家などが連携して農福連携の取り組みがスタートしました。
2019年には関係省庁が協力して「農福連携等推進ビジョン」を取りまとめ、農福連携の普及拡大に向けた方針を明確化しています。
さらに近年では2024年の改正で「食料・農業・農村基本法」では、第46条として、障害者等が能力に応じて農業に関する活動を行えるよう環境整備に必要な施策を国が講ずる旨が規定されました。
これにより、農福連携の推進が法律上も位置付けられたといえます。
国や自治体は農福連携を広めるために様々な支援策も講じています。
例えば、農福連携に取り組む団体や農家に対して設備導入や人材育成の費用を補助する支援事業や、全国の関係者をつなぐ農福連携等応援コンソーシアムの設立、成功事例の紹介や研修会の開催などです。
毎年11月29日を「ノウフクの日(11月29日)」として農福連携の普及啓発イベントを行ったり、優れた取り組みを表彰する「ノウフク・アワード」を開催したりといった普及活動も行われています。
こうした官民あげての支援体制により、農福連携は全国各地で年々広がりを見せています。
農林水産省の資料によれば、農福連携等に取り組む主体数(総計)は令和6年度末で8,277件です。
内訳は、農林水産業経営体等が3,918件、障害者就労施設等が4,019件、ユニバーサル農園等が340件とされています。
農福連携のメリットと成果
農福連携が注目される最大の理由は、上記のような農業と福祉双方の課題に対し具体的なメリットと成果が現れ始めているからです。
実際に農福連携に取り組んだ現場からは、以下のようなポジティブな報告が上がっています。
農業側のメリット

障害者など多様な人材を受け入れた農家からは「貴重な戦力になっている」「農作業の労働力を確保できたことで営業など別の仕事に充てる時間が増えた」といった声が聞かれます。
あるアンケート調査では、農福連携に取り組む農業経営体の77.3%が「収益性向上に対して効果があった」と回答しています(n=395)。
人手不足だった現場に新たな労働力が加わることで、生産量の増加や経営の安定につながっていると考えられます。
例えば公的資料では、京丸園(静岡県浜松市)は平成8年から毎年1名以上の障害者を新規雇用し、従業員102名中24名が障害者、また売上は25年間で6.5倍に拡大した事例として紹介されています。(参考:農林水産省資料『農福連携をめぐる情勢』)
このように、農福連携は農業経営に新しい人材をもたらし、事業の発展にも寄与し得るのです。
福祉側のメリット

障害のある方にとって農業に携わることは、働く喜びや生きがいを得る機会となります。
農福連携に参加した障害者就労支援事業所のうち87.5%が「プラスの効果があった」と回答しており、具体的には「就労訓練になった」「地域住民と交流ができるようになった」「コミュニケーション能力が向上した」などの成果が報告されています。
農作業を通じて体力がつき長時間働けるようになった、生活リズムが整った、といった利用者本人の変化も80%以上の施設で見られたとの調査もあります。
さらに、農業分野での就労をきっかけに障害者の収入が増加したケースもあります。
群馬県のある福祉事業所(社会福祉法人ゆずりは会 菜の花)では、20名以上の障害者が通年で農作業に従事し、認定農業者・JA組合員として地域農業の担い手になっています。
そこで働く障害者の平均工賃(月収)は令和4年に約7万6千円に達し、県内平均の約4倍という大幅な水準向上を実現しました。
このように農業という新たなフィールドで働くことで、障害者の経済的自立や生活の質の向上にもつながっているのです。
地域社会への効果

農福連携は農業側・福祉側の当事者だけでなく、地域社会にも良い影響をもたらします。
人手不足で耕作放棄地になりかけていた農地が障害者就労施設などによって再び耕作されるようになれば、地域の景観維持や農地保全につながります。
また、多様な人々が農業という場で協働することで、地域住民の交流が生まれ、相互理解が深まります。
実際に、鹿児島県南大隅町のある取り組みでは、高齢化と過疎化が進む地域で障害者だけでなく刑務所出所者や生活困窮者なども含め多様な人材が農業・加工・販売などに従事し、地域の高齢農家から農地を引き受けて38ヘクタールもの農地を守り活用しています。
この事例では、茶畑の収穫作業を障害者が担うなど適材適所で役割を分担し、個々の特性に合った仕事によって全員が地域の一員として貢献しています。
農福連携は、このように地域コミュニティの活性化や共生社会の実現にも寄与する取り組みと言えるでしょう。
以上のような成果が各地で報告され、「農業」と「福祉」の融合による相乗効果が明確になってきたことで、農福連携はますます注目を集めています。
単に理念だけでなく、実際に経済的なメリット(農家の収益向上や障害者の収入増)と社会的なメリット(地域の課題解決や障害者の自己実現)が現れていることが、人々の関心を高めている大きな理由です。
まとめ

農福連携が注目されているのは、農業分野の人手不足という課題と福祉分野の障害者の就労支援という課題を、一つの取り組みで同時に解決し得るからです。
国の後押しも受けて各地で実践例が増え、その効果も数字や事例で明らかになりつつあります。
農業現場にとっては担い手の確保と経営の活性化につながり、障害のある方にとっては働きがいや収入の向上、そして社会参加の促進につながる──まさに双方にメリットのある仕組みとして期待されているのです。
農福連携は日本の農業と福祉の未来を支える新たな潮流として、これからもますます広がっていくことでしょう。
専門家の目線から見ても、農福連携は地域社会全体に「うれしい・たのしい・おいしい」効果をもたらす有望な取り組みです。
ぜひこの機会に農福連携について理解を深め、皆さんの現場でも活用を検討してみてはいかがでしょうか。


